WordPressの保守を月額で受けている。いつか来る「解約したい」という連絡に、契約書の書き方で備えておきたい。または、契約書に解約の条項はあるものの、返金や引き継ぎのことまでは書いていない。
この記事は、保守を受けている個人・フリーランスに向けて、保守契約の解約条項で決めておくことと、その書き方をまとめたものです。条項の文例、お客様から・自分からの解約通知の文例、フリーランス新法の「30日前の予告」との関係、解約が決まったあとの引き継ぎまで扱います。
※この記事は、Web制作と保守の実務の立場から書いた一般的な情報で、法的助言ではありません。実際の契約書は、締結の前に弁護士などの専門家に確認してください。
解約条項で決めておく6つのこと
保守契約の条項の全体像は「WordPress保守契約書に入れる条項チェックリスト」の記事にまとめました。この記事では、そのうち解約に関わる部分を掘り下げます。
| 決めること | 書く内容の例 | 決めていないと起きること |
|---|---|---|
| 予告の期限 | 解約日の30日前まで | 「今月で終わり」と急に言われる |
| 通知の方法 | 書面または電子メール | 電話で言った・言わないになる |
| 最後の月の請求 | 日割りしない | 最後の請求額で行き違う |
| 前払い分の返金 | 未経過の月の分を返す、または返さない | 年払いのお客様と返金でもめる |
| 最低契約期間 | 設けない、または初期費用とあわせて設ける | 初期費用を抑えた分を回収できない |
| 引き継ぎ | 渡すもの、返すもの、費用 | 契約が終わってもパスワードを持ったままになる |
フリーランス新法の「30日前の予告」との関係
発注者からの解約に予告が要る場合がある
2024年11月1日に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)では、発注事業者が、6か月以上の期間で行う業務委託を解除する、または更新しないときは、例外に当たる場合を除いて、解除日または契約満了日から30日前までに予告しなければなりません。1か月ごとの自動更新でも、更新によって6か月以上続いていれば対象になります(厚生労働省「フリーランス・事業者間取引適正化等法」パンフレット)。
- 対象になる発注者:従業員を使っている事業者(法人なら、役員が2人以上いるか従業員を使っている)
- 予告の方法:書面、ファックス、電子メール等(SMSやSNSのメッセージを含む)。口頭は認められない
- 理由の開示:予告から契約満了までの間に、フリーランスが解除の理由を求めたら、遅滞なく開示する
予告がいらない例外は、災害などのやむを得ない事由、再委託で上流の契約が解除された場合、業務委託の期間が30日以下など短期間の場合、フリーランスの責めに帰すべき事由がある場合などに限られます。契約書に「一定の事由があれば予告なく解除できる」と書いていても、例外に当たらない限り予告は必要とされています(同パンフレット)。
こちらからの解約と、合意での解約は対象外
この予告の決まりは、発注者からの一方的な解除についてのものです。フリーランスからの解除は含まれず、双方の合意による解除も、フリーランスの自由な意思によるものであれば対象外です(同パンフレット)。また、事業者ではない個人のお客様からの依頼や、従業員のいないお客様からの依頼には、この予告の義務はかかりません。
だからこそ、法律の対象かどうかに関係なく、契約書に予告の期限を書いておくことが大切です。
「前月末まで」より「30日前まで」が安全
予告の期限を「解約したい月の前月末まで」とする書き方もよく見かけます。ただ、2月末で解約する場合、1月31日の通知では30日に足りません。法律の対象になるお客様との契約でずれが出ないように、「解約日の30日前まで」と書くか、余裕をもって「前々月の末日まで」とします。
解約条項の文例
第○条(中途解約)
1. 甲は、解約日の30日前までに、乙に書面(電子メールを含む)で通知することにより、本契約を解約できる。
2. 乙は、解約日の60日前までに、甲に書面(電子メールを含む)で通知することにより、本契約を解約できる。
3. 解約日を含む月の月額費用は、日割りしない。
4. 甲が月額費用を前払いしている場合、乙は、解約日の翌月以降の分を、解約日の属する月の翌月末日までに返金する。
5. 初期費用は、解約の時期にかかわらず返金しない。
6. 解約した場合でも、解約日までに発生した報酬の支払義務は消滅しない。
第○条(契約終了時の引き継ぎ)
1. 乙は、契約終了日までに、直近のバックアップデータと、乙が管理していたアカウント情報の一覧を甲に引き渡す。
2. 乙は、引き渡しの後、甲から預かったログイン情報を破棄し、自らのアカウントを削除する。甲は、引き渡しを受けた後、パスワードを変更する。
3. 次の保守担当者への説明など、前2項を超える作業は、別途見積りにより行う。
2項で自分からの予告を長めにしているのは、お客様が次の保守先を探す時間を確保するためです。日数は自分の運用に合わせて決めてください。
返金の考え方
月ごとの後払いなら、返金はほとんど起きない
「当月末締め・翌月末払い」の後払いなら、解約月までの分を請求するだけなので、返金はほとんど起きません。日割りしないことだけを書いておきます。
前払い・年払いは、未経過の分の扱いを決める
年払いや数か月分の前払いを受けている場合は、解約したときに残りの月の分をどうするかを必ず書きます。年払いを割り引いている場合は「割引前の月額で計算し直して差額を返す」といった計算方法まで書いておくと、もめにくくなります。
最低契約期間と、個人のお客様との契約
初期費用を安くする代わりに最低契約期間を設けるなら、期間中に解約したときに何を払ってもらうかを書きます。ただし、事業者ではない個人のお客様との契約では、消費者契約法第9条により、解除に伴う違約金などのうち、同じ種類の契約の解除で事業者に生じる平均的な損害の額を超える部分は無効になります(消費者庁「消費者契約法 逐条解説」)。個人のお客様に違約金を定めるときは、特に専門家に確認してください。
解約通知の文例
お客様から解約の連絡が来たときの返信
件名:保守契約の解約について(ご連絡の受領)
【お客様の名前】様
ご連絡ありがとうございます。【自分の名前】です。
保守契約の解約について、承りました。契約書第○条に沿って、次のとおり進めます。
・解約日:【年】年【月】月【日】
・最後の月額のご請求:【月】月分(日割りはいたしません)
・引き継ぎ:解約日までに、バックアップデータとアカウント情報の一覧をお渡しします
・お預かりしているログイン情報は、お渡しの後に破棄します。受け取られたら、パスワードの変更をお願いします
これまでご依頼いただき、ありがとうございました。
解約日まで、通常どおり保守を行います。
【自分の名前】
自分から解約を申し出るとき
件名:保守契約の解約のお願い
【お客様の名前】様
いつもお世話になっております。【自分の名前】です。
大変恐縮ですが、【理由:例)事業の体制を見直すため】、保守契約を解約させていただきたく、
契約書第○条に基づきご連絡いたします。
・解約日:【年】年【月】月【日】(本日から【○】日後)
・解約日までは、これまでどおり保守を行います
・次の保守担当者が決まりましたら、引き継ぎの説明に協力いたします(内容によっては別途お見積りします)
ご迷惑をおかけし申し訳ありません。ご不明な点があれば、このメールにご返信ください。
【自分の名前】
どちらも、送った日と受け取った日が残るように、電子メールで送ります。
解約が決まったあとの引き継ぎチェック
- 最後の月の定期作業と、月次報告を出したか
- 直近のバックアップを、お客様が受け取れる形で渡したか
- 預かっていたアカウント(サーバー、ドメイン、WordPress、フォームの受信先など)の一覧を渡したか
- 自分のWordPressのユーザーや、監視ツールの登録を削除したか
- 最後の請求と、前払い分の返金を済ませたか
- お礼の連絡をしたか
解約のときの対応が丁寧だと、「また頼みたい」「知り合いに紹介したい」と言ってもらえることがあります。
出典(確認日:2026年10月26日)
- 厚生労働省「フリーランス・事業者間取引適正化等法」パンフレット https://www.mhlw.go.jp/content/001329767.pdf
- 厚生労働省「フリーランス・事業者間取引適正化等法に基づく就業環境整備のポイント」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/bunya/freelance_00006.html
- 消費者庁「消費者契約法 逐条解説」第9条 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/consumer_contract_act/annotations/assets/consumer_system_cms203_230915_16.pdf
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フリーランス新法の要点は、無料の独立準備チェックリストにも期限つきでまとめています。中途解約や引き継ぎの条項まで入った契約書のひな形は、記事の下で紹介している保守契約スターターキットに入っています。