保守契約

WordPress保守契約書に入れる条項チェックリスト|範囲外作業・障害対応・解約予告・損害賠償の上限

WordPressの保守を月額で受けることになり、契約書のひな形も手に入れた。でも、どこを自分の仕事に合わせて直せばいいのかが分からない。

この記事は、個人やフリーランスでWordPress保守を受ける人に向けて、保守契約書に入れる条項を「書かないと何が起きるか」と合わせて整理したものです。範囲外作業、障害対応の時間、解約予告、損害賠償の上限、フリーランス新法との関係まで、もめやすい順に並べています。

※この記事は、Web制作と保守の実務の立場から書いた一般的な情報で、法的助言ではありません(弁護士の監修は受けていません)。金額が大きい契約、長く続く契約、初めての形の契約は、締結の前に弁護士などの専門家に確認してください。

保守契約書の条項は「もめる場面」から逆算する

保守でもめる場面は、おおむね次の4つに集まります。

  • 頼まれた作業が、月額に入っているかどうか
  • サイトが止まったときに、いつまでに何をするか
  • 解約を言われた月の請求と、引き継ぎ
  • 何かが壊れたときに、誰がどこまで負担するか

制作の契約は納品で終わりますが、保守は毎月続くので、この4つが何度でも起こりえます。条項は法律の言葉を並べることより、4つの場面で「どうするか」が読み取れることを優先して書きます。

WordPress保守契約書に入れる条項の一覧

条項 決めること 書かないと起きること
業務の範囲 含む作業、頻度、時間や回数の上限 「入っていると思った」作業が増え続ける
範囲外の作業 別途見積りにすること、未使用時間の扱い 断るたびに気まずくなる
障害対応 対応する時間帯、一次対応の期限、原因ごとの費用負担 「すぐ直ると思っていた」と言われる
報酬と支払い 月額、税別か税込か、締め日と支払日、日割りの有無 最後の月の請求で行き違う
契約期間と更新 開始日、更新の単位 いつまで続く契約か分からなくなる
中途解約 予告の期限と方法 「今月で終わり」と急に言われる
免責と損害賠償の上限 保証しないこと、賠償の上限 月額1万円の仕事で、大きな損害を請求されるおそれ
アカウントと引き継ぎ ログイン情報の受け渡しと返却 契約が終わってもパスワードを持ったままになる
再委託 作業の一部を他の人に頼むときの承諾 黙って外注したと受け取られる
秘密保持・個人情報 預かった情報の扱い 管理画面やフォームの情報を預かる根拠があいまいになる

ここから、もめやすい順に中身を見ていきます。

範囲外作業の条項:「別途見積り」を先に書いておく

範囲は料金表・見積書と一致させる

業務の範囲は、契約書の本文に全部書くより、「別紙または見積書のとおり」として、料金表のプランと同じ言葉で書くほうが管理しやすくなります。プランを変えたときに、契約書を作り直さずに済むからです。

範囲に書くのは、作業の名前、頻度、上限の3つです。「本体・プラグイン・テーマの更新(月1回)」「軽微な修正(月1時間まで)」のように、数字で区切ります。

範囲外の作業は「見積り→承諾→着手」の順にする

範囲外の条項は、断るための一文ではありません。追加の作業を気持ちよく引き受けるための手順です。

第○条(範囲外の作業)
1. 別紙に定めのない作業、および別紙に定めた時間・回数を超える作業は、本業務に含まない。
2. 前項の作業を行う場合、乙は事前に見積りを示し、甲の承諾を得てから着手する。
3. 当月に使われなかった作業時間は、翌月以降に繰り越さない。

2項の「承諾を得てから着手」があると、お客様は知らないうちに費用が増える心配がなく、こちらも「やったのに払ってもらえない」を防げます。範囲外になりやすいのは、デザインの変更、ページの追加、原稿の作成、新しいプラグインの導入と設定、サーバーの移転です。料金表の「含まないもの」にも同じ言葉で書いておきます。

障害対応の時間:一次対応と復旧を分けて書く

対応する時間帯と、一次対応の期限

「サイトが表示されない」と連絡が来たときの約束は、次の2つに分けます。

  • 一次対応:「連絡を受けました。いま確認しています」と返すまで。営業日で期限を約束する
  • 復旧:原因によってかかる時間が変わるため、時間は約束しない

対応する時間帯(例:平日10時〜18時)も書きます。ひとりで受けるなら、24時間365日の対応は書かないほうが誠実です。会社員のうちに受けるなら、平日の夜と週末だけ、といった実際の時間を書きます。

原因ごとの費用負担を決める

不具合の原因 扱いの例
自分の保守作業(更新など) 無償で復旧する
お客様や第三者の操作 原因の調査から別途見積り
サーバーの障害、他社のプラグインの不具合、攻撃などの外部要因 一次対応は行い、復旧は別途見積りになることがある

「自分の作業が原因なら無償、それ以外は別途」という線引きは、説明しやすく公平です。

バックアップの保管期間も書く

見落とされやすいのが、バックアップを何日分残すかです。復元できるのは保管している範囲までなので、「直近○日分を保管し、その範囲で復元する」と書いておくと、「半年前の状態に戻してほしい」と言われたときに困りません。

解約予告とフリーランス新法の関係

中途解約の条項の例

保守は1か月単位の自動更新にすることが多く、解約の予告期限と方法を決めておきます。

第○条(中途解約)
1. 甲または乙は、解約日の30日前までに、相手方に書面(電子メールを含む)で通知することにより、本契約を解約できる。
2. 解約日を含む月の月額費用は、日割りしない。
3. 解約した場合でも、解約日までに発生した報酬の支払義務は消滅しない。

発注者側からの解除は「30日前の予告」が義務になることがある

2024年11月1日に施行されたフリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)では、従業員を使っている発注者が、6か月以上の業務委託(更新で6か月以上になる場合を含む)を途中で解除する、または更新しないときは、原則として30日前までに予告することになっています。予告から解除日までに理由を求められたら、開示する義務もあります(公正取引委員会のリーフレットより)。

保守は更新を重ねて半年を超えることが多いので、この決まりに当たりやすい契約です。契約書の予告期限を「解約日の30日前まで」にしておくと、法律の運用とずれにくくなります。

解約条項の文例や、返金・引き継ぎまで含めた書き方は「保守契約の解約条項の書き方」にまとめています。

ほかに関係する発注者の義務

  • 取引条件の明示:業務の内容・報酬の額・支払期日などを、書面かメール等で示す(すべての発注事業者)
  • 60日以内の支払い:受け取った日から60日以内のできるだけ早い日を支払期日にする(従業員を使っている発注者)。「月末締め翌月末払い」はこの範囲に収まります

この法律で守られるのは、従業員を使っていないフリーランスです。事業者ではない個人のお客様から受ける仕事は対象外なので、そのぶん契約書で条件をはっきりさせておくことが大切です。

受ける側が確かめることや相談窓口は「フリーランス新法とWeb制作」で整理しています。

損害賠償の上限と免責の書き方

保証しないことを書く

保守をしていても、サイトの稼働率、検索順位、売上、問い合わせの件数を保証することはできません。そのことを免責の条項に書き、サーバーや他社のサービス、不可抗力が原因の損害は負わないことも書きます。

賠償の上限を決める

上限を決めずにおくと、月額1万円前後の仕事で、それよりはるかに大きな請求を受けるおそれがあります。書き方の例は「損害が発生した時点からさかのぼって過去3か月に受け取った報酬の額まで。ただし故意または重大な過失による場合を除く」です。

相手が事業者ではない個人の場合は、消費者契約法などで免責や上限の条項が制限されることがあります。個人のお客様と契約するときは、特に専門家に確認してください。

見落としやすい条項:アカウント・引き継ぎ・再委託

サーバーとドメインはお客様の名義にする

保守を始めるときに、サーバーとドメインの契約がお客様の名義になっているかを確かめ、こちらは管理画面に入る権限だけを預かる形にします。契約が終わったときは、預かったログイン情報を返し、お客様にパスワードの変更をお願いする、と書いておきます。

再委託は事前の承諾を条件にする

忙しい月に作業の一部を別の人に頼む可能性があるなら、「甲の事前の承諾を得て再委託できる」と書きます。外注するときは、今度はあなたが発注者として、取引条件を明示する義務を負います。

契約書を出す前の確認

  • 料金表の各プランと、契約書の範囲が同じ言葉で書かれているか
  • 一次対応の期限と対応時間帯は、自分が本当に守れる水準か
  • 原因ごとの費用負担が分けて書かれているか
  • 解約の予告期限と、日割りの有無が書かれているか
  • 賠償の上限と、保証しないことが書かれているか
  • ログイン情報の返し方と、サーバー・ドメインの名義を確認したか

AIを使うと、条項の下書きや言い換えはかなり速くなります。ただし、出てきた文章をそのまま使わず、自分の運用と合っているかを読み直し、重要な契約は専門家に確認してから締結してください。

あわせて読みたい:保守契約書に収入印紙は要る?

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