Web制作や保守を、会社や個人事業主から受けている。フリーランス新法という法律ができたことは知っているけれど、自分の取引のどこに関係するのかが分からない。
この記事は、Web制作・保守を受ける個人・フリーランスに向けて、フリーランス新法のうち受ける側が知っておきたい部分を、公正取引委員会と厚生労働省の資料をもとに整理したものです。自分が守られる側に当たるか、相手がどの義務を負う発注者か、取引条件の明示と60日以内の支払いの確かめ方、困ったときの相談窓口まで扱います。
※この記事は一般的な情報で、法的助言ではありません。個別の取引で判断に迷うときは、記事の最後の相談窓口や弁護士などの専門家に確認してください。
先に要点
- 正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」。2024年11月1日に施行された
- 取引条件の明示はすべての発注事業者の義務。60日以内の支払いなどは、従業員を使っている発注者だけの義務
- 事業者ではない個人のお客様(消費者)からの依頼は、この法律の対象外
自分は「守られるフリーランス」に当たるか
厚生労働省のパンフレットでは、この法律で守られるフリーランス(特定受託事業者)を、業務委託の相手方である事業者で、次のどちらかに当たるものとしています。
- 個人で、従業員を使用しないもの
- 法人で、代表者のほかに役員がおらず、従業員を使用しないもの
「従業員を使用」は、週の所定労働時間が20時間以上で31日以上の雇用が見込まれる人を雇うことで、同居の親族だけなら当たりません。会社員が副業で、事業者として他の事業者から仕事を受けている場合も、フリーランスに当たります(同パンフレット)。
相手はどの義務を負う発注者か
義務の範囲は、発注者の条件と取引の期間で変わる
| 発注者の義務 | 対象になる発注者・取引 |
|---|---|
| 取引条件の明示 | すべての発注事業者(フリーランスどうしの取引も含む) |
| 60日以内の支払期日の設定と、期日内の支払い | 従業員を使っている発注者 |
| 7つの禁止行為 | 従業員を使っている発注者で、1か月以上の業務委託 |
| 募集情報の的確な表示 | 従業員を使っている発注者 |
| 育児・介護等との両立への配慮 | 従業員を使っている発注者で、6か月以上の業務委託 |
| ハラスメント対策の体制整備 | 従業員を使っている発注者 |
| 中途解除・不更新の30日前予告と理由の開示 | 従業員を使っている発注者で、6か月以上の業務委託 |
(公正取引委員会の特設サイト、厚生労働省パンフレットをもとに作成)
Web制作の取引に当てはめると
| 依頼してきた相手 | 関係する義務 |
|---|---|
| 従業員のいる会社やお店 | 上の表の義務すべて(期間の条件つきのものを含む) |
| 従業員のいない個人事業主・ひとり社長の会社 | 取引条件の明示だけ |
| 制作会社からの下請け(制作会社に従業員がいる) | 上の表の義務すべて。支払期日には再委託の例外がある |
| 事業者ではない個人(趣味のサイトなど) | 対象外 |
公正取引委員会の特設サイトでも、消費者が家族写真の撮影を依頼する場合は対象外という例が示されています。個人のお客様との取引は、契約書で条件を決めておくことがいっそう大切です。
取引条件の明示:何が、どの形で届けばよいか
明示される事項
発注事業者は、業務委託をしたら直ちに、次の事項を書面か電磁的方法で明示しなければなりません(厚生労働省パンフレット)。
- 発注事業者とフリーランス、それぞれの名称
- 業務委託をした日
- 給付の内容(お願いする業務の内容)
- 給付を受け取る日、または役務の提供を受ける日
- 給付を受け取る場所、または役務の提供を受ける場所
- 検査をする場合は、検査を完了する日
- 報酬の額と支払期日
- 現金以外の方法で支払う場合は、その方法に関すること
届く形
明示の方法は、書面か、電子メール、SMS、SNSのメッセージ、チャットツールなどの電磁的方法で、電話などの口頭は認められません。電磁的方法で明示されたあとに、フリーランスが書面を求めた場合は、原則として遅滞なく書面を交付する必要があります(同パンフレット)。
Web制作では、ページ数や機能、修正の回数、公開予定日、報酬と支払日が、記録の残る形で届いているかを確かめます。打ち合わせだけで決まった場合は、内容をまとめたメールを送り、確認の返信をもらっておきます。
60日以内の支払い:起算日と書き方
起算日は「受け取った日」
従業員を使っている発注者は、給付を受け取った日から数えて60日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定め、その日までに支払う必要があります。パンフレットでは、起算日を次のように示しています。
| 取引の種類 | 起算日 |
|---|---|
| 情報成果物の作成(Webサイトの制作など) | 電気通信回線を通じて発注者のコンピュータに記録されたときなど |
| 役務の提供(保守など) | 個々の役務の提供を受けた日。日数を要する場合は一連の役務が終わった日 |
情報成果物と役務には起算日の例外もあるため、詳しくは「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」(解釈ガイドライン)を確認するよう案内されています。
「毎月末日締め、翌月末日払い」は認められる
月単位の締めで支払う場合、「毎月末日締め、翌月末日支払」は、受け取った日から2か月以内として運用するため認められています。一方、「●月●日まで」「●●日以内」という書き方は、具体的な日が特定できないため、支払期日を定めたとは認められません。支払期日を定めなかったときは、給付を受け取った日が支払期日になります(同パンフレット)。
1か月以上・6か月以上の取引で加わること
従業員を使っている発注者との1か月以上の業務委託では、受領拒否、報酬の減額、返品、買いたたき、購入・利用の強制、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直し、の7つが禁止されます。保守のように6か月以上続く取引では、発注者からの中途解除・不更新に30日前の予告が必要になります。解約の条項との関係は「保守契約の解約条項の書き方」の記事にまとめています。
受ける側が契約前に確かめること
- 相手は事業者か、従業員を使っているか(分からなければ契約前に確認する)
- 明示事項が、メールや書面など記録が残る形で届いたか
- 支払期日が「●日まで」ではなく、具体的な日で決まっているか
- 支払期日が、受け取った日から60日以内に収まっているか
- 範囲外の作業や修正の回数の扱いが決まっているか
- 個人のお客様の場合、契約書で同じことを決めたか
困ったときの相談窓口
| 窓口 | 内容 |
|---|---|
| フリーランス・トラブル110番 | 厚生労働省の委託で第二東京弁護士会が運営。取引上のトラブルを弁護士に無料で相談できる。電話 0120-532-110(9:30〜16:30、土日祝日を除く)、メールの問い合わせフォーム、予約制のビデオ通話。和解あっせんも無料 |
| 公正取引委員会の違反申出窓口 | 取引条件の明示、支払期日、禁止行為など、取引の適正化の部分の申出 |
| 厚生労働省の申出窓口・都道府県労働局 | 中途解除の予告、ハラスメントなど、就業環境の整備の部分の申出 |
行政機関に申し出たことを理由に、発注事業者が契約を解除したり、取引をやめたりする不利益な取扱いは禁止されています。行政機関は、調査のうえ指導・助言や勧告を行い、勧告に従わない場合は命令・公表ができ、命令に違反すると50万円以下の罰金があります(同パンフレット)。違反か分からない段階なら、まずフリーランス・トラブル110番に相談できます。
自分が作業の一部を他のフリーランスに頼むときは、自分が発注事業者になり、少なくとも取引条件の明示の義務を負います。
一次資料(確認日:2026年10月26日)
- 公正取引委員会「フリーランス法特設サイト」 https://www.jftc.go.jp/freelancelaw_2024/index.html
- 公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法の違反被疑事実についての申出窓口」 https://www.jftc.go.jp/soudan/shinkoku/freelance.html
- 厚生労働省「フリーランス・事業者間取引適正化等法」パンフレット https://www.mhlw.go.jp/content/001329767.pdf
- 厚生労働省「フリーランス・事業者間取引適正化等法に基づく就業環境整備のポイント」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/bunya/freelance_00006.html
- 厚生労働省「フリーランス・事業者間取引適正化等法の違反被疑事実についての申出窓口」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/freelance_moushide.html
- フリーランス・トラブル110番 https://freelance110.mhlw.go.jp/
- e-Gov法令検索「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」 https://laws.e-gov.go.jp/law/505AC0000000025
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